機械学習理論研究室
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自分にとって得な方を二人とも選ぶと、二人とも損をする。そんな場面があります。ただし同じ相手と何度も付き合うなら、話は変わります。値下げ合戦を題材に、協力が成り立つ条件を確かめましょう。
文化祭の日、体育館の前に焼きそばの屋台が2つ並びました。あなたのチームと、となりのクラスのチームです。味も量も同じです。決めることは値段だけで、300円のまま売るか、200円に値下げするかの2つから選びます。
お客さんは安い方に流れます。両方とも同じ値段なら、半分ずつに分かれます。1日の終わりに、もうけを点数にすると次の表になります。
| となりが 300円のまま | となりが 200円に値下げ | |
|---|---|---|
| あなたが 300円のまま |
あなた3
となり3
|
あなた0
となり5
|
| あなたが 200円に値下げ |
あなた5
となり0
|
あなた1
となり1
|
自分だけ値下げすればお客さんを独り占めできて5点。値下げされた側は0点です。両方が値下げすると、お客さんは半分ずつのまま値段だけ下がるので、1点ずつしか残りません。
となりのチームも、同じ表を見て考えています。どちらかを押してください。
となりのチームが何をするかは、こちらには決められません。そこで「となりがこう出たとき、自分はどちらが得か」を、場合ごとに調べます。
どちらかのボタンを押すと、その場合のあなたの点数2つが光ります。
文化祭は1日で終わりません。同じ相手と、明日も明後日も売り続けるとどうなるでしょうか。
ここからは、同じとなりのチームと毎日売り合います。相手は決まったやり方(作戦)で値段を決めます。作戦を選んで、1日ずつ、あるいは一気に最後まで進めてみましょう。
—
「300円のまま」か「200円に値下げ」を押すと、その日の勝負が進みます。
縦に見ると、その日にお互いが何をしたかが分かります。赤が並び始めたら、値下げ合戦に入っています。
日数が進むと線が伸びます。2本の線の傾きを見比べてください。傾きが大きいほど、1日あたりのもうけが大きいということです。
相手をしっぺ返しにして、自分は毎日値下げで通してみてください。1日目は5点取れますが、そのあとは1点ずつしか入りません。合計は30日で34点です。
同じ相手に、毎日300円のままで通すと、30日で90点になります。相手から点を取りに行かない方が、自分の点が高くなります。
では、どの作戦がいちばん強いのでしょうか。総当たりで戦わせてみます。
7つの作戦を全部集めて、すべての組み合わせで50日ずつ戦わせます。自分と同じ作戦とも戦います。気まぐれ(ランダム)が入る対戦は9回くり返して平均を取るので、何度実行しても同じ結果になります。
—
| 順位 | 作戦 | 1日あたり平均点 | 合計点 | 性格 |
|---|---|---|---|---|
| 「総当たり戦をする」を押すと結果が出ます。 | ||||
上位に並ぶのは、複雑に読み合う作戦ではありません。次の4つを満たす、単純な作戦です。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 自分からは仕掛けない | 相手がふつうに売っているうちは、こちらも値下げしない |
| やられたらやり返す | 値下げされたら、次の日は自分も値下げする。やられっぱなしにしない |
| 根に持たない | 相手がふつうの値段に戻したら、こちらもすぐ戻す。過去を数えない |
| 分かりやすい | 相手から見て次の手が読める。読めるから、相手も協力を選べる |
この4つをそのまま作戦にしたのが、しっぺ返しです。最初は300円のまま。次の日からは相手が前日にやったことをそのまま返す。書けば1行です。
STEP 1 で見た、お互いが自分にとって得な手を選ぶと二人とも損をするという形の問題を、囚人のジレンマといいます。2人の容疑者が別々の部屋で取り調べを受け、自白するかどうかを選ぶ、という設定で最初に説明されたのでこの名前がついています。値段でも、宿題の分担でも、点数の形が同じなら同じ問題です。
お互いが値下げした状態(1点ずつ)からは、片方だけが300円に戻しても0点に落ちるので、誰も自分からは動けません。このように、誰も自分だけ手を変えても得をしない状態をナッシュ均衡といいます。全員にとって良い状態とは限らない、というのがここでの要点です。
そして、最初は協力し、あとは相手の前回の手をそのまま返す作戦がしっぺ返し(Tit for Tat)です。
石取りゲームAI では、AIは勝った手を増やし負けた手を減らすだけで強くなりました。あのゲームでは、正しい手が最初から1つに決まっていました。石が残り4個なら3個取る。相手が誰であっても変わりません。
こちらは違います。相手が「いつも協力」なら値下げで通すのが正解で、「しっぺ返し」なら300円のままが正解です。正解が相手によって変わります。しかも相手も同じように作戦を変えてきます。こちらが学習している間に、正解そのものが動いていきます。
同じ形の問題は、あちこちにあります。
| 場面 | 協力にあたる手 | 裏切りにあたる手 |
|---|---|---|
| 温室効果ガスの削減 | 費用をかけて減らす | 他国が減らすのに任せる |
| 同じ商品を売る店どうし | 値段を保つ | 先に値下げして客を取る |
| グループ発表の準備 | 自分の担当をやる | 他の人に任せて手を抜く |
| 漁場の資源 | 取る量を抑える | 先に多く取る |
どれも、来年も再来年も同じ相手と顔を合わせます。条約や契約や評判は、関係が続くことを相手に分からせるための仕組みだと読むこともできます。